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電車の女(更新中)
作成者: むつこ(@18b41cb4a312)
- 都心からの帰り道。夜の下り電車は満員。
- 外は暗闇。やがて人もまばらになってきた。
- ある駅で、隣に座っていた乗客が降りた。
- 電車が動き出す。隣の乗客が降りたことで、視界の端にふたつ隣の座席に座る女が見えた。
- なにか違和感を感じ、顔を向けて見てみると、電車の進行方向の向きに、女の角度は極端に傾いて座っている。
- 夜の時間によく見る、極度の眠気に体が倒れてしまっている人か、と理解しかかったそのとき、、
- 女と目が合った。
- 女は寝てなどいなかったのだ。
- 女は体をくの字に傾けたまま、片手でスマホを持ち、白いマスク、黒いイヤホンをした状態でスマホを見ていた。
- 目が合ったと感じたのは僕の錯覚だったのか、それとも女が一瞥しただけだったのかはわからない。
- 少し焦ってしまっただけかもしれない。
- それにしてもぎょろりとした大きな目だった。
- 暗闇を走る電車の音だけがまた聞こえ始める。
- 視界の端に映り込む女は、やはり傾いたままだ。
- 本当に起きていたのか?それとも寝ているのか?
- 田舎に向かう電車が何駅か過ぎた頃、ある駅で真向かいの男性が降りた。
- 好奇心に駆られたぼくは女を向かい側から見てみたいと思い、立ち上がって向かい側に座り直し、男性の尻の温もりを感じた。
- 女はリクルートスーツに身を包み、脱いだ上着を膝に抱えている。
- 艶のある黒髪はひとつにまとめられ、前髪もヘアピンで横に流してぴっちりと留めている。
- 白の長袖のYシャツは第一ボタンまで行儀よく留められ、黒いパンプスはまだあまり履きこなされていないかのように、電車の照明を濁りなく照り返していた。
- その肌は、遅い梅雨を追い越すような夏日が続いていることなど関係ないかのように白く、大きな瞳の黒さがより存在感を引き立たせていた。
- たったひとつだけの、しかしながらもっとも大きな違和感が、女の傾きだった。
- 女は傾きは座面に対して40度くらいだ。そして、傾いた姿勢を保ちながら、スマホを見ている。マスクをしているので表情は伺えない。
- ぼくはバッグから眼鏡を取り出した。
- 度は入っていないので、良く見るためではない。
- 斜め向かいに座る女にこっちを見られたときに、眼鏡のフレームが少しでも視界の防御になればと考えたからだ。
- それから何駅かが過ぎただろうか。
- 姿勢はそのままに、女がスマホを持っているのと反対側の手のひらで両目を押さえ始めた。
- 眩しいのか?
- やはり眠いのか?
- と、そのとき、
- 女の白いマスクが吐く息で膨らみ、すぐに大きく凹んだ。
- 膨らみと凹みが繰り返され、そのうちその間隔が短くなってきた。
- 明らかに呼吸が乱れている。
- 具合でも悪いのだろうか。
- いや、泣いている?
- いや、、笑っている?
- 車窓に映る民家の明かりもほとんど無くなり、下り電車は無機質な表情で淡々と線路と車輪がぶつかる音を鳴らしている。
作成日: 2024年6月28日 更新日: 2024年7月3日